第2回 東京工芸大学構造実験室における実験(昭和59年度)
 

 
図(ホ・ヘのみ)及び表1を
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 昭和59年のある日、財団法人日本住宅・木材技術センター(以下住木センター)研究部長の小倉高規氏より電話をいただきました。用件は、林野庁からの依頼で間伐材を利用した肉用牛舎の設計基準を作成することになったので、そのための委員会のメンバーに加わってくれないかというものでした。

 小倉氏の要請を受けて最初の会合に出席したところ、メンバーは国公私立の大学教授や国立の研究所・試験場の先生方でした。委員会設立の趣旨説明と自己紹介の後「低コスト肉用牛畜舎設計基準策定推進委員会」の設立が決まり、設計・積算分科会、構造計画分科会、材料分科会の3つの分科会が設けられました。私は設計・積算分科会の所属となりましたが、構造計画分科会にも大きく関わりを持つことになりました。構造計画分科会の活動のなかには構造実験があり、それを誰に依頼するかを検討しているうちに、肥育牛舎は林業試験場が担当することになり、繁殖牛舎は私に白羽の矢が立ちました。

 その理由は、繁殖牛舎は規模が小さいので、この際実大試験をしてみてはどうかということになり、東京工芸大学(以下工芸大)はその可能性が大きいと思われたためでした。試験体を建てるスペースと試験体から15mぐらい離れた場所に、引張試験用の反力として大きなコンクリートの塊を埋め込むスペースが2箇所も必要でしたが、国立大学や国立の研究所・試験場ではそうしたスペースを確保し使用することが難しかったためです。

 スペースの確保はできたとしても問題は人手です。卒業研究のテーマとして考えていたので、学生がやる気になってくれなければどうにもなりません。しかも、時期が夏休み直前で、この実験に取り組むことになれば夏休みを半ば返上しなければなりません。学生にとって大切な夏休みを犠牲にしなければとても間に合わないので、学生達がこの話に乗ってくれるかどうか心配でした。そこで、早速卒業研究生全員を集めていろいろ説明したところ「面白そうなので是非やらせてください」という答えが返ってきたので、私の研究室で引き受けることにいたしました。

 牛舎といえども建築基準法を守らなければなりません。そこで、構造計画分科会は牛舎の耐震壁のあり様についていろいろと議論し、9パターンの案を立てました。私は実験を引き受けるにあたり、(ヘ)の「2つ割筋かいクロス・合板ガセット」というパターンをひとつ追加させて貰いました。それは、45mm×90mmの木造筋かいの端部を構造用合板ガセットプレートと釘で接合した2組の筋かいをたすきに入れたものです。この場合の筋かいは引張に利かせるようにしたもので、左からの地震力には右上がりの筋かいが利き、右からの地震力には左上がりの筋かいが利いてバランスのとれた構造になります。

 私の希望は受け入れられ、本格的に実験の準備が始まりました。仮設事務所の組立て、実験に使用する材料や工具類、変位計等計測に必要な機器類、データの取込みのためのパソコン等はすべて住木センターに用意して貰い、あとは図面待ちという状況になった頃、構造分科会主査の佐野先生から試験体の図面を頂きました。

  いよいよ実験に取り掛かることになりましたが、試験体の作成、水平加力、データの取込み、試験体の解体等、卒研生達が皆一丸となって、真夏の暑い盛りの中で毎日頑張ってくれました。実大実験なので変位計の取付け箇所が多く、そのうえ屋外実験のため毎日のように変位計の取付けと調整および取外しをしなければなりません。また、真夏のことなので天候が急に変わり、あわてて変位計を取り込んだり、時には俄か雨が通り過ぎてから再び変位計を取付け、調整のし直しを済ませてから再度実験を始めたりしたこともありました。

 屋外での長丁場の実験は大変なことで、私にとって始めての大仕事でしたが、これを全うすることができたのは、卒業研究生全員の熱意と、住木センターから派遣され工芸大の実験現場に毎日通って学生を指導してくれた諏訪氏の協力によるものと感謝しています。また、分科会の席や実験現場でいろいろとご指導下さった構造計画分科会主査の佐野先生に厚くお礼申しあげます。

 表1は「試験体仕様と試験結果」で、(ホ)と(ヘ)は変形角1/120ラジアンと1/60ラジアンの両方で2000kgを超えていてベスト2に該当します。変形角とは柱頭の変位量を柱の長さ(土台の芯から桁の芯までの距離)で割った値で、単位は角度の単位ラジアンです。柱の長さは2.7mだったので1/120ラジアンでは柱頭の変位量が270cm×1/120=2.25cmという計算になり、1/60ラジアンでは4.5cmとなります。従って、表1の中の荷重は柱頭を2.25cmまたは4.5cm変位させるために必要な荷重ということで、これらの数値が大きいほど耐震性が大きいということです。(ホ)と(ヘ)の筋かいの端部は図の「筋かい端部接合詳細図」を参照して下さい。因みに(ホ)に使用した金物は住宅金融公庫融資住宅・木造住宅工事共通仕様書のZマーク表示金物(接合金物)筋かいプレートBPです。

 なお、構造計画分科会は実験の結果を剛性・強度・施工性・経済性・牛との相性等総合的に検討し、(ヘ)の「2つ割り筋かいクロス・合板ガセット」仕様の採用を決定し、基準策定推進委員会はそれを受けて、大分県玖珠郡と宮崎県東臼杵郡にそれぞれ1棟ずつ繁殖牛舎の試行建築を実施しました。



< 繁殖牛舎試験体パターン >


 

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< 表1 >



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