第7回 TIP構法住宅第1号の誕生

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 平成2年の秋、建築関係の仕事で知り合った友人のK氏が私の研究室を訪ねて来ました。熱海に新居を建てることになり、つい最近着工したところなので、参考までに私の実験を見たいということでした。早速、実験室に案内して実験装置や当時実施していた実験の様子を見てもらいました。実験室を見終わってから再び研究室に戻った後、以前行った実験とそれらのデータについて説明すると、自邸の耐震性を高めるために、今からこの構法を取り入れられないかと相談をうけました。TIP構法を実際の住宅で活かせることになるので、私はK氏の期待に添うよう努力することを約束して別れました。

 講義の合間を見て熱海の現場に行った時は既に上棟が済んでいました。これは急がなければならないと思い、早速、TIP構法に関する資料一式を広げて、大工さんと打合せを始めました。建て主の希望であると同時に我が国ではじめての構法であるということなので、大工さんも私の話を真剣に聞いてくれました。その後、何回か現場に通い大工さんと打合せをしたり、工程写真を撮ったりしましたが、その頃は生まれたばかりの子供の成長を見守る親のような気持ちで一杯でした。

 外壁の下地板が全部張り終わった10月の末に、TIP構法が「新しい耐震構法」として地域の新聞にとりあげられました。地元紙とは別に、毎日新聞本社記者の樽味記者と知り合ったことがきっかけで、平成2年11月7日の同新聞朝刊の家庭欄で、TIP構法が全国に紹介されました。

 樽味記者と最初に逢ったのは虎ノ門の喫茶店でした。当時、私は財団法人日本建築センター評定委員会の木質系構造分科会委員を委嘱されていましたので、虎ノ門の建築センターに出掛けることが多く、建築センターで待ち合わせをして近くの喫茶店で話をしました。その日は、前もって送っておいた資料について一通り説明しましたが、その後2、3回逢っていろいろと質問をうけました。樽味記者が一番心配していたことは、TIP構法という新しい耐震構法が私の独創によるものであるか否かという事のようでした。  

 毎日新聞に掲載された日は、全国の読者から電話による問合せが大学に殺到し、問合せをされた方の住所・氏名・電話番号等を書きとめるのに事務職員は大わらわだったということでした。その日は午後から定例の教授会で、それでなくても忙しい日だったので、事務職員に大変迷惑をかけてしまいました。以後、取材を受けたときは、問合せは文書に限ることにして電話番号は書かないよう記者さんにお願いすることにしました。

 掲載された後、どこからも誰からもクレームは無く、取材した樽味記者はほっとされたとのことですが、後日談として次のような話を聞きました。家庭欄の記事の取扱いについては、どこかに問題点がないか全員でチェック(アラ探し)をする習慣があり、TIP構法についても、いつもの様に生活家庭部の記者全員でいろんな角度から「アラ探し」をしたけれど一つとして「アラ」が見つからなかったという事でした。

 なお、大学に問合せを下さった方々には一人ひとりお手紙を差し上げて、後日、研究室主催のTIP構法セミナーにご案内し、ご期待にお応えしました。


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