第17回 東京工芸大学構造研究室における実験
       筋かい端部のクリアランス(1)45×90筋かい

 平成7年1月の阪神大震災によって、旧基準で建てられた在来工法住宅が数多く倒壊しました。震災後、その原因を解明する専門家の説明のなかで「既存不適格(住宅)」という耳慣れない言葉が語られていましたが、ご記憶の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 ところで「既存不適格住宅」とは、どんな住宅なのでしょうか。昭和55年に改正され翌年4月に施行された建築基準法は、木造住宅の耐震規定を以前より厳しくしました。そこで「昭和56年以前に建てられた住宅は、建設当時の耐震基準をクリアしていたとしても、55年に改正された建築基準法の耐震基準に照らし合わせると、耐震壁が足りなくて適格な住宅とはいえません。」ということです。

 ここで、耐震壁が主として「筋かい」で構成されている場合について考えて見ましょう。改正前の旧基準で建てられた住宅の筋かいの数は、改正後の住宅と比較するとかなり少ないので、大地震の際、筋かい一本あたりが負担する地震力は逆にかなり大きくなります。地震時には通常、ほぼ半分の筋かいに圧縮力が、残りの半分には引張力が、地震の揺れに応じて交互にかかります。地震力が著しく大きい場合は、引張力が作用する筋かいは、その接合部が壊れ、柱や横架材からはずれてしまいます。一方、圧縮力が作用する筋かいは、その端部が仕口にぶつかります。このぶつかりが筋かいの折損、柱の引抜き、横架材の突き上げを引き起こすのです。このように、筋かいが少ない住宅を大地震が襲った場合、筋かいは住宅骨組みの仕口を破壊する「凶器」に変身することがあります。

 TIP構法の特徴の一つとして、筋かい端部にクリアランス(隙間)を設けることを挙げています。地震発生直後、筋かい端部が仕口にぶつかる衝撃をやわらげるためです。ガセットプレート方式で筋かい端部を接合するTIP構法も、当初は筋かいを横架材に密着させていました。しかし、大地震の被害調査報告などを調べているうちに、筋かいにクリアランスを設けることが必要ではないかと考えるようになりました。クリアランスを設ければ、軸組がある程度変形するまでは、筋かい端部のぶつかりがないので、仕口の破壊を防ぎ、ひいては住宅の倒壊を防止することに寄与するのではないでしょうか。

 そこで、これまでのクリアランスのない試験体とクリアランスを設けた試験体に水平荷重をかけて荷重変位曲線を作成し、両者の比較を行うことにしました。但し、筋かい端部のクリアランスは、筋かいが仕口をいためないための配慮であり、これを設けることによる水平耐力の増加は望まないことにしました。クリアランスの無いものと比較して、特に大きな欠陥が見られない限り、クリアランスを設けたいと考えながら実験に臨みました。

 図1は上下二段ともTIP仕様の試験体立面図で外見では全く同じですが、上段は筋かい端部が横架材に密着したもので、下段は筋かい端部にクリアランスを設けたものです。また、左側は筋かいに圧縮力が掛かるパターンで、右側は筋かいに引張力が掛かるパターンです。なお、クリアランスがその効果を発揮するのは圧縮パターンの場合に限ります。
図1
図1
 
 図2はクリアランスが無い場合の接合部詳細図で、図3はクリアランスを設けた場合の接合部詳細図です。図2、図3のガセットプレートのサイズと、釘の本数は同じです。
図2 図3
図2 図3
 
 図4は筋かいに圧縮力が作用した場合の荷重変位曲線で、変位5mmから変位140mmまでの荷重はクリアランスなしのほうが上回っています。また、変位175mmから215mmまでは逆転してクリアランスありのほうが僅かながら上回っています。全体的には、クリアランスを設けたほうが多少弱くなっていますが、変位175mmを過ぎても急激な耐力の低下が見られませんでした。
図4
図4
 
 図5は筋かいに引張力が作用した場合の荷重変位曲線で、クリアランスなしのほうが終始クリアランスありを上回っています。図6は圧縮と引張の平均値の荷重変位曲線です。平均値が作用する場合の荷重は、殆どの範囲でクリアランスなしのほうがクリアランスありを上回っています。
図5 図6
図5 図6
 
 表1は平均値の荷重変位曲線から作成した所定変形時荷重です。この表から、クリアランスを設けた場合は10%ほど荷重が低下することが分かりました。
 ところで、クリアランスを設けたことにより10%程度の荷重低下が見られますが、特に心配はありません。むしろ、45×90のように断面の小さい筋かいで、僅か10%程度で済んだことが重要です。
表1
表1
 

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