TIP構法のガセットプレートとして、薄鉄板で補強した構造用合板ガセットプレート(以下補強ガセットという)を使用して実験を始めたのは平成5年度のことでした。その後、補強ガセットを使用して厚さ4.5cmで幅10.5cmおよび厚さ4.5cmで幅12cmという幅の広い筋かいの単体実大実験を行い、その優れた耐震性能を確かめました。そこで、補強ガセットと4.5cm×12cmの広幅筋かいを組み合わせて使用すれば、従来のものに比べて一段と耐震強度の高い住宅が造れるものと考え、これを高耐力TIP構法と名づけました。
これに対して、公庫仕様で筋かいをすべて9cm角にするなどして、耐震強度を増大させたものを高耐力公庫仕様と名づけて、高耐力TIP構法仕様と高耐力公庫仕様を比較するため、両仕様の実大試験体を造り、平成8年度に公開で水平加力試験を実施しました。
公庫の高耐力仕様 |
TIP構法の高耐力仕様
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公開実験は試験体作成のため、中2週をあけて2度にわたって実施しました。はじめは、公庫の高耐力仕様で平成8年12月5日に、2度目はTIP構法の高耐力仕様で12月19日に行いました。
公庫仕様とTIP仕様の実大実験は昭和61年度に既に実験しているので、ここでは、その時の試験体仕様をそれぞれ前回仕様と呼ぶこととし、平成8年度の実大実験の試験体仕様を高耐力仕様と呼ぶことにします。評価については、前回と平成8年度の実験から得られた四つの荷重変形曲線を用いて3種類の比較グラフを作成して行う事としました。3種類のグラフの1つ目は公庫仕様どうしで前回仕様と高耐力仕様を比較したもの、2つ目はTIP構法仕様どうしで前回仕様と高耐力仕様を比較したもの、3つめは高耐力仕様どうしを比較したものです。
高耐力仕様の試験体については、基本となる平面図や高さ関係(土台上端から2階胴差上端まで)は昭和61年度の実験と同じにしましたが、隅柱4本は2階建てを想定して通し柱とし、2階床より上に91cm伸ばしました。通し柱に合わせて管柱・間柱・下地板も同じ高さまで伸ばしました。その他、両仕様で共通していることを列挙すると以下の通りです。(1)土台はひのき:12cm×12cm(2)柱は通し柱・管柱とも杉:12cm×12cm(3)間柱は杉:3cm×12cm(4)窓台・まぐさとも杉:4.5cm×12cm(5)下地板は杉:1.1cm×8cm(6)アンカーボルトの直径は16mm(7)ホールダウン金物はS―HD10でこれに使用するボルトは座金付きボルトM16Wで、柱への留めつけはラグスクリューLS12を使用しました。
両仕様の違いは、筋かいの断面と筋かい端部の接合材および下地板の張り方です。筋かいの断面については、公庫仕様の9cm×9cmに対してTIP仕様は4.5cm×12cm、筋かい端部の接合材については、公庫仕様の筋かいプレートBPに対してTIP仕様は4種類の補強ガセット。下地板の張り方については、公庫仕様の水平張りに対してTIP仕様は斜め45度張りです。また、胴差の施工に関しては、公庫仕様の場合は<2>〜<3>通り間と<4>〜<5>通り間は12cm×30cm、その他は12cm×12cmの部材を併用した鉛直荷重対応型軸組ですが、TIP仕様では12cm×12cmの胴差を外周に回し、1間の開口部の上部だけは12cm×18cmの補強梁を入れて補強した水平荷重対応型軸組としました。但し、今回の実験では胴差と補強梁の間に6cmの隙間をあけ、柱の付近と中央付近にスペーサーを入れてボルトで締め上下の部材を一体化させました。
12月5日の高耐力公庫仕様と12月19日の高耐力TIP仕様の両方に参加された方のなかから、「5日の実験では変形が進んでも音もなく静かだったのに、19日の実験では変形が進むにつれてパーン・パーンと大きい音が聞こえてきたのは何故でしょうか?」という質問がでました。試験体を調べてみると下地板が何箇所か折れているのがわかりました。下地板どうしの突合せ部分がぴったりと隙間無く付いているところで圧縮力がかかった下地板は、逃げ場が無くて座屈し、限界を超えるとそれが折れて大きな音を立てていたのです。このことから、斜め張りの下地板が極めて有効に地震力を負担していることを実感するとともに、下地板が地震時に折れないよう、下地板の突合せ部分に多少の隙間を空けて張るほうが耐震性の向上にとって大切であるということを知りました。
○ 前回仕様と高耐力仕様の試験体の比較
図1は公庫仕様の試験体側面図で前回仕様を図1−1、高耐力仕様は図1−2とします。また、図2はTIP仕様の試験体側面図で前回仕様を図2−1、高耐力仕様は図2−2とします。図3は公庫仕様の接合部詳細図で前回仕様と高耐力仕様の違いを図で説明しました。また、図4はTIP仕様の接合部詳細図でこれも前回仕様と高耐力仕様の違いを図で説明したものです。表1は公庫仕様の試験体部材表で前回仕様と高耐力仕様の違いは「緑色」で示しました。また、表2はTIP仕様の試験体部材表で前回仕様と高耐力仕様の違いを「緑色」で示しました。
○ 実験結果
(1) 住宅公庫仕様:高耐力仕様と前回仕様の比較
図5は公庫仕様で高耐力仕様と前回仕様を比較するための荷重変形曲線です。両者の荷重を比較すると変位25mmでは1.43倍、変位50mmでは1.55倍、変位100mmでは1.67倍とすべて高耐力仕様の方が前回仕様を上回っています。また、最大荷重を耐震強度とすると高耐力仕様は変位220mmのとき5,799kg、これに対し前回仕様は変位130mmのとき2,575kgで高耐力仕様は前回仕様の2.25倍の耐震強度をもっている事がわかりました。
(2) TIP構法仕様:高耐力仕様と前回仕様の比較
図6はTIP仕様で高耐力仕様と前回仕様を比較するための荷重変形曲線です。両者の荷重を比較すると変位25mmでは1.78倍、変位50mmでは1.73倍、変位100mmでは1.68倍とすべて高耐力仕様の方が前回仕様を上回っています。また、最大荷重を耐震強度とすると高耐力仕様は変位205mmのとき10,939kg、これに対し前回仕様は変位190mmのとき6,909kgで高耐力仕様は前回仕様の1.58倍の耐震強度をもっている事がわかりました。
(3) 高耐力TIP仕様と高耐力公庫仕様の比較
図7は高耐力TIP仕様と高耐力公庫仕様を比較するための荷重変形曲線です。両者の荷重を比較すると変位25mmでは2.41倍、変位50mmでは同じく2.41倍、変位100mmでは2.35倍とすべて高耐力TIP仕様の方が高耐力公庫仕様を上回っています。また、最大荷重を耐震強度とすると高耐力TIP仕様は変位165mmのとき11,329kg、これに対し高耐力公庫仕様は変位230mmのとき5,868kgで高耐力TIP仕様は高耐力公庫仕様の1.93倍の耐震強度をもっている事がわかりました。
○ 法令上の耐震強度と実験で確かめられた耐震強度について
建築基準法施行令第3章第3節木造の第45条によれば9cm×9cmの木材筋かいの倍率は[3]で4.5cm×12cmの木材筋かいの倍率は[2]と規定されています。また、下地板の倍率は水平に張っても斜め45度に張っても[0.5]です。そこで、高耐力TIP仕様の試験体の倍率を計算すると、筋かいと下地板を併用した耐震壁が片面で2枚、両面で合計4枚となるので2.5×4=10、下地板のみの耐震壁が両面で2枚となるので0.5×2=1となり合計で11となります。一方、高耐力公庫仕様の試験体の倍率は、筋かいと下地板を併用した耐震壁4枚で3.5×4=14、下地板のみの耐震壁2枚で1、合計15となります。法令上は高耐力公庫仕様のほうが高耐力TIP仕様の15/11=1.36倍となりますが、実際の耐震強度は法令上は弱いはずの高耐力TIP仕様が高耐力公庫仕様の1.93倍と逆転していることがこの公開実験で判明しました。
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