第1回
「いい家」の条件



 当協会会員であり「いい家をつくる会」の主催者である松井修三氏が書いた「『いい家』が欲しい」という書籍(三省堂発行)が、これから家を建てようとしている人を中心に、よく売れているようです。そこで「いい家」とはどんな家なのかご一緒に考えて見ましょう。

 太平洋戦争が終了してから数年後、東京をはじめとする全国の各都市で戦災の復興が始まりました。ちょうどその頃の昭和25年に建築基準法が制定されました。木造住宅の主流である軸組構法の耐震壁に、はじめて筋かいをとりいれるなど、地震防災に対して一歩踏み込んだものとなりました。この法律は、昭和23年の福井地震に対する反省から、従来の市街地建築物法にかわって制定されたと聞いております。その後、十勝沖地震・新潟地震・1974年伊豆半島沖地震・1978年伊豆大島近海の地震・1978年宮城県沖地震・昭和58年日本海中部地震が各地で発生し、それぞれ大きな被害をもたらしました。地震による災害を経験するにつれて建築基準法の耐震基準も徐々に改められました。平成になってからも、平成5年釧路沖地震・平成5年北海道南西沖地震その他の地震が相次ぎましたが、極め付きは平成7年1月17日の早朝に発生した兵庫県南部地震ではないでしょうか。

 「この地域には大地震は絶対に来ない」と殆どの住民が信じていた兵庫県を、突如襲ったマグニチュード7.2の大地震は一瞬のうちに数多くの住宅を倒壊し、同時に6432人の生命を奪いました。そこで政府は平成11年に、従来の仕様規定を性能規定に代えるという、耐震基準に対する発想の転換を伴う大きな改正を行いました。ところで、技術基準は時代とともに変わってきましたが、一貫して変わらないのは基準法の「目的」です。それは、基準法の第1条に書かれていますが、その条文を紹介すると次のとおりです。「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする」と。

 建築設計の業務を大別すると意匠系・構造系・設備系の三つに分類されます。意匠系を計画系と呼んだり、設備系を環境系と呼ぶこともありますが、呼び方が変わっても内容は殆ど変わりません。住宅を建てるとき、最初に行なう配置計画とか平面計画とか、それと並行して行なう立面計画は意匠系の作業で、家を建てるとき建築主が最も力を入れるところです。しかし、第1条の条文の中には意匠または計画という文言は見当たりません。意匠または計画については設計者の力量によりその出来ばえに違いは出ますが、出来ばえの良し悪しが国民の生命や財産に大きく関わることはないと思われているからではないでしょうか。一方、構造と設備については、それぞれの文言がはいっていますが、設備についてもその出来ばえが国民の生命や財産に大きく関わることはありません。最後に残った構造はどうでしょうか。兵庫県南部地震の被害を見ればお判りの様に、多くの生命と多くの財産が失われました。その原因の全ては構造にあります。多数の人命が失われたのは多数の住宅が一瞬のうちに倒壊したためであることは間違いありません。

 価値観が多様化している現在、「いい家」とは、人によって様々だとは思いますが、あなたにとって「いい家」とは何でしょうか。特に「いい家」の条件のうち最優先の条件は何かを、お建てになる前にじっくりと考えてみてください。最近しばしば話題に上る高断熱・高気密住宅を最優先にする建築主も少なくないと思いますが、折角理想の住宅を建てても、大地震で倒壊するようなことがあれば元も子もありません。私は、関東地震や兵庫県南部地震クラスの地震に襲われてもビクともしない住まい造りを目標にして多くの実験を重ねてきましたが、地震・台風に対する「構造安全性の確保」が「いい家」の第一条件であると確信しています。そしてそのことが基準法の目的にも添うことになるのではないでしょうか。

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