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第8回 実験の基本方針
実用化を目指して・・・費用対効果の原則
以前、発明協会主催のある式典に参加したときのことですが、来賓として来られていた特許庁の方から「新しいものを発明することはとても難しいことですが、それを実用化するということはその1000倍も10000倍も難しいことです。」という趣旨の話を聞いたことがあります。どんなにすばらしい発明品でも、それがもたらす効果に見合った価格でなければ、世間が受け入れてくれません。価格を下げるためには、量の多少はあるとしても、大量生産が必要となります。しかし、生産したものが思うように売れなければ在庫の山ができて事業は行き詰まってしまいます。生産と販売のバランスをとりながら、事業を軌道にのせることで「実用化に成功」ということになるわけですが、そこに至るまでの苦労は並大抵のものではないと言うことを示唆したものと思います。
住宅の場合は注文生産が基本ですから、工場生産品の場合と事情は違いますが、それでも、費用のことは建て主や工務店にとって最大の関心事です。そこで、新しい耐震構法の開発をめざして実験を始めるに当たり、私が第一に考えたことは、構造力学の原理をできるだけ活用しようということです。何故なら、構造力学の原理は「使用料無料」ですから、それを巧く使えば、少ない費用で大きな効果を挙げることができ、実用化の道が開かれるのではないかと思ったからです。
比較実験・・・相手は横綱
昭和25年に制定された建築基準法および同施行令には、木造軸組構法の簡便な耐震設計法が導入され、そのなかで「筋かい」も耐震要素のひとつに位置付けられました。しかし、施行令では軸組や筋かいの端部の接合について、抽象的な表現(構造耐力上主要な部分である継手又は仕口は、ボルト締、かすがい打ち、込み栓打その他これらに類する構造方法によりその部分の存在応力を伝えるように緊結しなければならない。)にとどまっていたので、折角筋かいを入れてもその両端に長さ75mmの釘を2〜3本斜めに打って軸組に取り付ける程度の施工がまかり通って、「圧縮には利くが引張りには利かない筋かい」が蔓延しました。
一方、同じ年度に発足した住宅金融公庫は融資の条件として「住宅金融公庫融資住宅・木造住宅工事共通仕様書」に沿って工事をすることを義務づけました。共通仕様書では軸組の接合部は金物で補強することを原則とし、接合部ごとに使用する金物の種類や釘の長さまでも具体的に示したので、公庫の融資住宅の耐震性は施工レベルでは最高のものとなりました。
平成15年初場所でモンゴル出身の朝青竜が連続優勝して横綱に昇進しました。横綱はすべての力士の憧れですが、横綱になるには抜群の強さが求められます。勿論、力士の品格も大切な要件ですが、強さにおいては現役力士の最高峰でなければなりません。ここで、軸組構法の地震に対する強さを大相撲にたとえて見ると、なんといっても横綱は公庫仕様ではないでしょうか。公庫仕様が横綱だからこそ、木造住宅の設計者の多くは、自分が設計した住宅の構造安全性を確保するために、「特記ない限り公庫の共通仕様書による。」として利用してきたのだと思います。
新しい耐震構法の開発を目指すからには、公庫仕様に勝るものにしなければ意味がありません。そこで、私の実験はすべて、公庫仕様との比較実験とすることにしました。たとえて言えば、横綱の胸を借りようということで、耐震要素の扱いを工夫した新仕様と横綱格の公庫仕様に、同じ土俵で相撲を取ってもらおうと考えたのです。同じ土俵とは、試験体の軸組の構成や耐震要素として使用する部材の材料、寸法をすべて同じにするということです。違いは耐震要素の扱い方だけで、これが多分、力士の力量や技量に相当するものでしょう。こんな方針に沿って、昭和60年度以降、公庫仕様との比較実験を積み重ねてきましたが、それらの勝負の結果は「TIP構法開発の経緯」のなかで順次紹介して行くことにします。
実験の規模・・・規模は2種類
実験(実験のことを試験ともいいます)は、試験体の規模により単体試験と実大試験にわかれますが、基本は単体試験です。「単体試験」とは昭和60年度の実験と同様、単体試験体用軸組(長さ1.82m、高さ3m)に各種の耐震要素を取り付けた試験体の水平加力試験です。単一の耐震要素の耐震性能を知るための試験で、日本住宅・木材技術センター等公的試験機関で行う試験に準じたものです。一方「実大試験」とは、2階建て小住宅の1階部分に見立てた立体構造軸組(梁間3.64m、桁行6.37m、高さ3m)に、単体試験の結果、採用を決めた複数の耐震要素を取り付けた試験体の水平加力試験です。
なお、単体試験の場合は木材の品質のばらつきを考慮して、1仕様ごとに3体の実験を行ない、3体のデータの平均値をその仕様のデータとしています。
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