第18回 TIP構法の模型実験(その1)
(1)模型実験の基本軸組と実験要領
図1の中央の基本軸組は木造住宅の単位軸組の約5分の1縮尺模型で、地面に見立てた台の上に基礎を設け、その上に土台を固定し、約18cm離して長さ56cmの柱を2本立て、柱の頂部に桁を載せたものです。
間柱は模型実験の結果に殆ど影響がないので省略しました。土台・柱・桁の断面はすべて2cm角とし、ほぞ穴の加工などの都合上、土台と桁の両端は柱芯から少し伸ばしました。木造住宅の柱と土台・胴差・桁など横架材の交点(以下節点という)は通常、柱に設けたほぞを横架材に設けたほぞ穴に差し込んで組み立てますが、このような接合はピン接合といい、そのままでは、2階床で人が歩いただけでぐらぐら揺れてしまいます。 因みに、ピン接合された節点をピン節点といい、模型の節点も桁が左右の斜め材に近づくまでの範囲では、回転しやすいピン節点にしました。なお、左右の柱と土台の接合部は構造物を支持する点であるから支点といい、ピン節点であるので回転端ともいいます。ピン節点など節点の種類については〔注1〕を、支点・回転端・固定端については〔注2〕を参照してください。
試験体ができたら加力と測定です。耐震壁の実験は、桁または柱頭に水平荷重をかけ、かけた荷重とそのときの桁の変位量を基に解析するのが一般的です。模型実験でも、荷重と変位の関係を調べるために、基本軸組の両側に加力装置を設けました。桁の端部を紐で水平に引っ張り、斜材に取り付けた滑車(ミシンのボビン)を介して90度方向転換させ、その紐の先に分銅を載せる受台をぶら下げます。この受台に分銅を載せると桁は変位して基本軸組は傾きますが、このとき載せた分銅の重量が水平荷重ということになります。実験室の実験では、かけた荷重とその荷重に対する変位量をセットにしてコンピューターに取り込み、荷重変位曲線を作成して考察しますが、この模型実験では荷重だけを定量的に扱い、変位は基本軸組みの傾きを目で見て感じていただくことにします。
〔注1〕節点の種類について
平面骨組の節点はピン節点と剛節点の2種類で、ピン(ヒンジまたは滑節ともいう)節点とは、集まる部材端の1つを不動としたとき、他の部材が回転し得る節点のことで、剛節点とは、集まる部材端の一つを不動としたとき、他の部材が移動も回転もし得ない節点のことです。(昭和52年:日本建築学会編:丸善発行:建築学便覧U構造より)
〔注2〕支点・回転端・固定端について
支点とは「工学的に理想化した構造物を支持する点、通常支え方は移動端・回転端・固定端の三つに分類されるが、現実には中間的な性格を示す。」と記述されています。
また、TIP構法模型実験に関わりのある回転端と固定端については以下の通りです。
回転端とは「部材の端部または構造物の支点において、外力に対して回転はするが、移動はしない支持端。部材端部にはピンが、構造物の支点にはピン支承が用いられる。」
固定端とは「部材が固定の状態で支持されているときのその端部。」と記述されています。
(昭和51年:株式会社彰国社発行:建築大辞典(縮刷版)より)
(2)基本軸組に水平荷重を加力した場合
上記の基本軸組は「四隅がすべてピン節点の長方形軸組」です。この基本軸組に水平荷重をかけたらどうなるでしょうか。写真1は基本軸組を垂直に立てた状態の写真です。この模型の左側の受台に0.1Kgの分銅を載せると、写真2のように軸組は左側に傾いてしまいます。四隅の節点がすべてピン節点の軸組ですから、マッチ箱の中の箱を取り去った外側の箱を横から押した時と同様、不安定な構造なので簡単に変形してしまうのです。
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写真1 |
写真2 |
(3)ガセットプレートの効果
@) 右上隅にガセットプレートを取り付けた場合
つぎに、基本軸組を再び垂直に立て、右上の節点の周辺に取り付けてある4本の頭なし細釘に、あらかじめ釘に合わせて穴をあけておいた三角形のガセットプレートを取り付けて、0.5Kgの分銅を左側の受台に載せて見ましょう。写真3からお分かりのように、軸組は少し左に傾いただけです。模型ですから、ガセットプレートの釘は、その数も少なく、穴に差し込んだだけなので止めつけも緩やかですが、それでも、この節点は一応、剛節点と見做すことができます。四つのピン節点のうちの一つを剛節点としたため、この軸組はピン節点が三つ、すなわち「3ピン式ラーメン」という安定した構造に変身し、0.5kgの荷重に耐えられたのです。念のため、右側の受台にも分銅を載せてみましょう。写真4からお分かりのように軸組は少し右に傾いただけです。3ピン式ラーメンは「スリー・ヒンジド・ラーメン」または「3滑節ラーメン」ともいい、鉄骨造または大規模木構造で体育館やプールなどスパン(張間)の大きい建物を設計するとき、柱脚以外のピン節点を棟に設けて、張間方向の軸組として利用することがあります。
〔注〕ラーメン:Rahmen ドイツ語(広辞苑より)
ラーメンとは建築用語で、材と材とを結合して組み立てる構造物すなわち骨組の一形式。節点がすべて剛節すなわち変形しにくい結合から成る。現代の建築物、特に鉄筋コンクリートの骨組はほとんどこの種の構造。剛節架構。
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写真3 |
写真4 |
A)左下隅にガセットプレートを取り付けた場合
ガセットプレートのもう一つの効果についてご説明します。基本軸組を垂直に立て、左下の節点にガセットプレートを取り付けてから、0.5kgの分銅を左側の受台に載せて見ましょう。写真5からお分かりのように、軸組は少し左に傾きます。つぎは、右側の受台に0.5kgの分銅を載せてみましょう。写真6からお分かりのように、軸組は少し右に傾きます。左右どちらに載せても、「右上隅にガセットプレートを取り付けた場合」と同様、僅かに傾きますが軸組は倒壊しません。この場合もピン節点の数は三つですが、これは、三ピン式ラーメンではありません。教科書的には「片持ばり型軸組」と呼びます。なぜなら、左側の柱の脚部にガセットプレートを取り付けたので、柱脚が固定端になります。この柱1本だけを取り出し、右回りに90度回転させると柱は梁の様に水平になり、左端は固定端、右端はフリー(自由端)になります。これは、鉄筋コンクリート造のマンションなどで、ベランダを支えるために柱や大梁から水平にはね出している梁(片持ばり)と同じ構造形式なので、この軸組を一般に「片持ばり型軸組」と呼ぶわけです。90度回転させず、あるがままに、柱脚固定型軸組と呼んだほうが分かり易いと思いますが、いかがでしょうか。この軸組の特徴は、左側の柱脚固定の柱だけが地震力に抵抗しているのであって、右側の柱と桁は耐震上全然役に立ってはいないのです。模型実験ではあまり関係ありませんが、本物の地震の場合は、右側の柱と桁は、それが支えている床や屋根の重さで地震力を増やすことになるので、耐震的にはマイナスになります。
ところで、自然界の樹木の幹は、地中深く、四方八方に根を張って自立しています。永年にわたって風雪に耐え、堂々と自立している大木の姿を見ると、畏敬の念を抱かざるを得ません。これはまさに柱脚固定型の典型ではないでしょうか。自然界から離れたところでも、商店街の照明灯や郵便ポストなど、注意して見ると街中のいたるところで柱脚固定型の工作物を目にすることができます。
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写真5 |
写真6 |
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