第21 吸収エネルギー その1
 
1.入力エネルギーと吸収エネルギー
 
 私は地震に強い耐震壁を目指して、多数の試験体の水平加力試験を積み重ねてきましたが、そのなかでいつも「地震に強い耐震壁」が備えるべき条件について考えてきました。一般に、地震に強い耐震壁の条件は「剛性(注 1)」、「強度(注 2)」、「靭性(注 3)」の三つの値が大きいことといわれています。
 
 ところで、二つの耐震壁を比較する場合、剛性と強度については荷重変位曲線とそのデータから、どちらがどれだけ強いかがはっきり分かるので問題はありません。しかし、靭性については木造の耐震壁であるための難しさがあります。靭性を定量的に扱う場合は通常、靭性率(注 4)という指標を用いますが、木造耐震壁の靭性率は、それを計算しようとしても肝心の降伏点がはっきりしないので、答えが曖昧なものになってしまいます。そこで、私は靭性の指標として吸収エネルギー(注5)を採用することにしました。
 
 さて、木造住宅が大地震に襲われたとき、地震力を受けとめる役割をつとめるのは主として耐震壁ですから、木造住宅を強くするためには耐震壁をねばり強いものにしなければなりません。ねばり強い耐震壁を適量かつバランスよく配置すれば、住宅全体がねばり強いものとなり、大地震による倒壊など大きな被害を防ぐことができるものと思います。
 
 ここで、今日までの大地震による木造住宅の被害について振り返ってみましょう。ある日ある地域に大地震が発生すると、その地域の住宅の多くが被害を受けます。しかも、地域の中にさまざまな住宅があるように、被害の方もさまざまです。被害の程度を大雑把に分けると一番大きいのは全壊で、そのつぎは半壊、大きな損傷、軽微な損傷と続きます。勿論、四つのランク一つひとつの中でも、被害の程度は千差万別です。また、たとえ目に見える被害を受けなかった住宅でも、大きな揺れを経験したことによる「劣化」という被害を受けていることを忘れてはいけません。
このようにさまざまな被害が生まれるのは何故でしょうか。それは、地震時に住宅に入り込む「入力エネルギー」(注6)と個々の住宅骨組が持っている「吸収エネルギー」のせめぎあいの結果です。一般に入力エネルギーより吸収エネルギーが大きい場合は、骨組の劣化以外、大きな被害は生まれません。逆に、入力エネルギーが吸収エネルギーより大きい場合は、両者の差の程度に応じて、全壊から軽微な損傷にいたるまで、さまざまな被害が生まれるのです。したがって、大地震の被害を少なくするためには、吸収エネルギーの大きい耐震壁を使用することが大切になります。理想の耐震壁を探し出す前に、つぎの「吸収エネルギーの計算法」について説明させていただきます。細かい計算は別にして、概要だけはご理解していただきたいと思います。
 
(注1) 剛性:構造物あるいは構造部材が変形に対して示す抵抗の度合いで荷重と変形の
関係を示す曲線の傾きで表わされる。
(注 2) 強度:構造部材や材料が外力に対して耐えることのできる最大の抵抗力
(注 3) 靭性:構造物または部材のねばり強さのこと。構造物が弾性範囲を超えて破断す
る前にエネルギーを吸収する能力。
(注 4) 靭性率:地震に対する構造物の最大変位応答を降伏変形で割った値。地震応答の
大きさを表わす指標として用いる。
(注 5) 吸収エネルギー:構造物が外力の作用によって吸収するエネルギー。
(注 6) 入力エネルギー:外部から振動系に入力されるエネルギー。
以上の(注)はすべて日本建築学会編 岩波書店発行 建築学用語辞典より。
 
 
2.吸収エネルギーの計算法
 
 吸収エネルギーの概要がお分かりいただけたと思うので、今度は吸収エネルギーの計算法について説明します。一般に吸収エネルギーは荷重変位曲線の面積であるといわれますが、これだけでは漠然としていてよく分かりません。そこで、荷重変位曲線から吸収エネルギーを計算し、計算結果から吸収エネルギーのグラフを作成する手順をご説明します。
 
 その前に、「AE 25」という記号の説明をしておきましょう。 AEとは英語の Absorbed Energyの頭文字で、吸収エネルギーのことです。また、添字の 25は変位 25mmのことで「AE25」は変位 25mmの吸収エネルギーを示す記号で、それは「柱頭が 25mm変位するまでに、試験体が吸収するエネルギー」と定義しておきます。
 
 記号の説明が済んだので、手始めに「 AE25」を計算してみましょう。図1は試験体Xの荷重変位曲線です。これは試験体Xの水平加力試験によって得られたデータから作成したグラフです。図2は試験体Xの荷重変位曲線の原点付近を拡大したもので、説明に必要な事項が書き込まれています。荷重変位曲線とX軸に挟まれたスペースを、原点から 5mm間隔に立てた5本の垂線で五つの閉鎖系に分けます。いま、荷重を表わす縦の線を底辺とみなし、X軸の変位間隔5mmを高さと考えれば、原点に近い最初の閉鎖系は三角形、あとの四つは台形とみる事ができて、五つの閉鎖系の面積は以下のように簡単に計算できます。
 
図1 図2
図1 図2
 
 最初の閉鎖系は三角形で、底辺に相当するのは荷重 251kg、高さに相当するのは変位 5mm、したがってその面積は 251×5÷2= 627.5s・mmとなります。この単位をs・mに変えるため 1000で割り四捨五入して小数第一位で表わすと 0.6s・mとなります。2番目は台形で、上底は前の三角形の底辺で 251s、下底は 316sです。したがってその面積は( 251+316)×5÷2=1417.5kg・mmで、単位等を前に合わせると 1.4kg・mとなります。同様にして3番目は(316+356)×5÷(2×1000)=1.7s・m、 4番目は 1.9s・m、5番目は 2.1kg・mで、「AE25」すなわち変位 25mmの吸収エネルギーは1番目から5番目までの合計で 7.7s・mとなります。
 
 表1は「 AE25」をパソコンで計算した場合です。3列目に台形の上底、4列目に台形の下底、5列目に台形の高さを入力します。この場合、最初の三角形は上底が0の台形と考えます。6列目は各閉鎖系の面積で、関数を設定して置けば答えは自動的に記入されます。単位の変換も関数に入れておくことで、答えの単位はs・mになります。最後の7列目は吸収エネルギーで、6列目の閉鎖系の面積を累加した値が AE5から AE25までの吸収エネルギーとして記入されています。
 
表1
表1
 
 表2は、試験体Xの荷重変位曲線のデータを使用して、その吸収エネルギーを原点から変位 200mmまでの全領域にわたって計算したものです。筋かいを用いた耐震壁なので、筋かいに圧縮力が働く場合と引張力が働く場合の平均値を使用します。5mm間隔で、各変位の吸収エネルギーが計算されていますが、棒グラフは変位点を五つに絞って作成しました。図3は試験体Xの吸収エネルギーを示す棒グラフです。この座標軸のX軸は項目軸で、 AE25、AE50、AE100、AE150、AE200の5項目を設定しました。また、Y軸は吸収エネルギーの大きさをs・mの単位で示す数値軸としました。このグラフは試験体Xの単一グラフですが、複数の試験体のデータを項目ごとに並べて比較するなど、幅広く活用することもできます。次回は今までに紹介してきた耐震壁の吸収エネルギーを公庫仕様と比較しながら検討していくことにします。
 
表2 図3
表2 図3

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