平成2年の秋、熱海のTIP構法住宅第1号の着工をきっかけに、TIP構法が多くのマスコミによって報道されました。そこで、TIP構法で「マイホーム」を建てたいという建築主や、その建築主のためにTIP構法を勉強したいという工務店が私の研究室を訪ねてきました。それらの方々の期待に応えるために、私は講義と研究の合間に各地の現場に行き、現場監督や大工職の指導に当たりました。
現場指導と並行して大学内でも研究室主催のセミナーを行いましたが、平成4年のセミナーに際して、TIP構法の愛好者たちからTIP構法の団体を作って欲しいという声が高まってきました。当面は任意団体を目指すということすが、任意団体といえども一つの団体を設立し維持していくということは容易なことではありません。
私が戸惑っていたとき、私の背中を押してくれたのは長島貞之助氏でした。長島氏は平成元年10月、東京工芸大学で行われた、神奈川県主催の第2回産学協同セミナーの際に私の講演を聞いてTIP構法のファンになられた方で、以来長くお付き合いを続けてきました。そこで、長島氏の熱意に応え、設立準備委員会をスタートしました。設立委員会の実務は長島氏にお任せしましたが、役員会議や定款作成の様な重要な場面には私も出席し話し合いを重ねているうちに設立の準備が完了しました。こうして、平成5年1月16日に設立総会を経て日本TIP建築協会がめでたく誕生しました。
協会の事務局は以前私が設計事務所を経営していた東大赤門前のマンションの一室に置き、協会の運営は専務理事の役職をお願いした長島氏を中心に当たって頂きました。当時はまだ東京工芸大学に所属して、学生の指導と研究活動に当たっていた私はTIP構法の開発者として協会の会長の重責を担うことになったので、協会設立以来毎月末、長島氏の自宅と東京工芸大学の最寄り駅である、本厚木駅ビル内の食事店で一ヶ月分の報告を聞き、協会の運営の進め方などについていろいろ語り合いました。
長島専務理事は協会運営の傍ら住宅に関係の深い官公庁を訪問し、私が作成した資料を持参してTIP構法のメリットを説いて廻りました。TIP構法を広く世に知らせるために大事な方法であるとの確信のもとに行われたことと考えております。
以下の性能保証だよりに関する松崎謙一氏の「TIP構法とは」という記事は、長島氏の表敬訪問に対し当時の(財)性能保証住宅登録機構研究技術課長の松崎氏が協会事務局に来られ、TIP構法に関する資料をもとに長島氏が行った説明を聞かれたうえで、この構法を多くの登録会員に知らせようと考えられて記事にされたとのことです。ここに改めて詳しく紹介させて頂きます。ただし、編集の都合により、記事のうち必要度の少ない部分と、現在の実情とあっていない部分を省略しました。また、説明を分かりやすくするために、写真はすべてカラー写真にさしかえました。
性能保証だより 第115号 平成5年4月号
研究技術課あれこれ |
|
(財)性能保証住宅登録機構研究技術課長(当時) |
平成2年10月4日付けの朝日新聞で、静岡県熱海においてこの構法を用いて、住宅が造られたことが報道されました。この構法は、東京工芸大学の上西秀夫先生が自らの研究室で昭和58年4月以来「在来軸組構法による木造建物の構法開発に関する研究」を続けて、平成元年10月に熊本で開催された日本建築学会の秋の大会で発表して一段落したものです。
そこで、この「TIP構法」を運営している日本TIP建築協会の長島専務理事のお話を伺い、頂いた資料をもとに簡単に紹介します。
まず、この構法の特徴はというと(1)筋かいの端部を、三角形の構造用合板と釘を用いて柱と横架材の両方に接合し、(2)外壁下地板を斜め45度に張ることによって建物の耐震性を著しく向上させるということです。「地震国」である我が国にとって画期的な発案といえるでしょう。
「TIP」の名称の由来は二つあり、ひとつは、三角形の(Triangular)接合用(Incorporate)合板(Plywood)を用いたという構法からきており、もうひとつは、上西先生の学校である東京工芸大学の英文名 Tokyo Institute of Polytechnics のイニシャルを取ったところからきているそうです。
構法施工実績として、平成4年12月20日現在、日本TIP建築協会の資料では、熱海の住宅を第1号として全国で77棟の数があげられており、都道府県別では次の通りとなっています。
都道府県名 |
東京 |
神奈川 |
静岡 |
千葉 |
埼玉 |
京都 |
愛知 |
施工棟数 |
16 |
29 |
2 |
4 |
12 |
5 |
2 |
都道府県名 |
山梨 |
香川 |
高知 |
鹿児島 |
福島 |
宮城 |
合計 |
施工棟数 |
2 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
77 |
| 〔注1〕 |
上表は協会設立前のデータです。協会設立直後に住宅金融公庫との協議が成立してからは、TIP構法住宅1棟ごとに特記仕様書を1部ずつ発行しています。平成18年11月末までの発行部数は6847棟です。
 |
| 〔注2〕 |
上図のガセットプレートは構造用合板で作成したものですが、平成12年の建築基準法の改正以後は構造用合板を薄鉄板で補強した補強ガセットを使用しています。 |
この構法には、特に特許申請とかパテントというものはなく、技術的にも平易なもので、構造用合板を用いた「ガセットプレート」方式の接合により木材の引っ張り強度をうまく引き出し、ラス下地の取り合いを考えて、その下地板を斜め張りとしたものです。
上西先生の実験では、次の写真と図表に示すとおり住宅金融公庫仕様の2.69倍の強度を得た結果が報告されています。

さきほどの説明を深く掘り下げる意味で「TIP構法」の必須条件があり、箇条書きに整理してみました。
| (1) |
接合に用いる構造用合板はJASの認定品とし、厚12mm(または12mm以上)とする。 |
| (2) |
外壁下地板の厚さは、12mm(または12mm以上)とする。ただし、市販品の下地板で厚12mmが入手できない場合は11mmでも可とする。 |
| (3) |
筋かい材は45mm×90mm以上の断面を有するものとする。 |
| (4) |
構造用合板および外壁下地板に用いる釘は、N50またはN50相当釘とし手打ちまたは機械打ちとする。 |
| (5) |
柱と横架材の接合は、取り付けが可能な限り構造用合板と釘を用いる。 |
| (6) |
柱と横架材の交点に筋かいの端部が取付けられる場合は、各部材を必ず構造用合板と釘で接合する。 |
| (7) |
筋かいのセンターラインと柱および横架材の内法線は一点に会する。 |
| (8) |
筋かいの上下端には、適当なクリアランス(隙間:20〜25mm程度)を設ける。 |
| (9) |
長さ1820mm以上の窓開口を囲む軸組の四隅は、すべて構造用合板と釘で接合する。 |
| (10) |
長さ1820mm以上の掃出し開口を囲む軸組の四隅はすべて構造用合板と釘で接合する。ただし、柱脚で構造用合板が設けられない場合は、接合用金物を用いて接合する。 |
| (11) |
外壁下地板は、斜め45度の勾配とし、約25mm程度の目透かし張りとする。 |
| (12) |
外壁下地板と柱の接合は、柱芯で継ぐ場合は2−N50とし、隅柱に接合する場合は4−N50とする。 |
| (13) |
外壁下地板と土台の接合は、4−N50とする。 |
| (14) |
外壁下地板と横架材の接合は、2―N50または4−N50とする。 |
|