平成6年頃結設計室の関谷真一氏とフォレスト建築研究所の小椋祥司氏からTIP構法について、話をしたいとの申し入れがありましたので、快くお受けして数日後に新宿の談話室「滝沢」で面会しました。面会の要旨は、設計者の立場から見てTIP構法は優れた構法と思うので、この構法の普及に協力したいということでした。両氏はマスコミの情報からTIP構法を知り、私のセミナーにも参加してTIP構法について相応の知識と関心を持っていたので、このように熱心な設計者が現れたことを心強く思い両者に協力をお願いして別れました。
その後、関谷氏は東京・八王子のS氏に住宅の設計を依頼され、TIP構法を採用して設計を担当しました。勿論、事前にTIP構法について充分説明したうえで、建築主の賛同を得た上でのことでした。
S氏邸は関谷氏の指導のもと、日本TIP建築協会の会員であった白鳥工務店の施工により、見事に完成しました。住宅専門の月刊誌「ハウス&ホーム」はTIP構法で建てられたS氏邸に着目して1995年11月号(※PDF書類)に大きく取り上げました。いま、その雑誌を開いて見ますと「話題の家をチェックする」という前置きがあり、タイトルは[お金もかからず、ちょっと手を加えるだけ!]に続き行を変えて一回り大きな文字で「木造住宅がたちまち地震に強くなる」となっています。
これに似た文言は目次のはじめと表紙にもあります。特に表紙は目立ち易いデザインで“チェック”「木造住宅が俄然、地震に強くなるTIP構法ってなに!?」と書いてあります。表紙やタイトルに劣らず、内容も非常に充実していて4ページにわたるS氏邸の紹介記事のうち半分以上の紙面を、TIP構法の説明(文章と写真)に費やしています。S氏邸を取材した「住宅ライター」前山美登里さんの記事の素晴らしさもさることながら、この記事を書くために行われたであろうインタビューの答えやTIP構法に関する説明や写真その他の資料提供など、関谷氏のTIP構法に対する理解とこの構法を世の中に普及させようとする前向きの姿勢がうかがわれる立派な記事にできあがっています。
S氏邸の着工と前後して、関谷氏と小椋氏が東京工芸大学の私の研究室を訪ねて来ました。話を聞くと、TIP構法を将来に伝えるために、その概要を住宅専門の学術雑誌に掲載して記録に残して置いた方が良いのではないかと「住宅建築」の植久編集長をお連れしてきましたということでした。
「住宅建築」は建築思潮研究所が編集し建築資料研究社が発行している建築学術雑誌で、平成7年1月の兵庫県南部地震を振り返り阪神淡路大震災と住宅という特別企画を組みました。1995年5月号(※PDF書類)はシリーズの3回目でPart 1とPart 2に分れています。関谷氏の論文はPart 1 ―木造の再構築―のなかに掲載され、そのタイトルは「在来木造住宅の新たな展開に向けて―復権の鍵を握る新技術・TIP構法―」というものです。TIP構法をよく理解しかつ評価している方で無いと、とてもここまでは書けないであろうと思われるほど優れた論文なのでご紹介させていただきます。
ただし、ホームページの編集の都合上、文章だけをさきに紹介して、図面と写真をあとにまとめました。ここで、図面と写真について説明しておきます。荷重変位曲線は東京工芸大学の上西研究室で1986年度に実施した実大試験体による水平加力試験でTIP構法仕様と住宅金融公庫仕様の荷重変位曲線を比較したグラフであり、もう1枚の図面(筋かい端部仕口と下地板張り)は住宅金融公庫の技術開発課の要請により平成7年に私が作成したTIP構法特記仕様書の図面の一部です。また、掲載されている写真は関谷氏自身が前述のS氏邸の施工中に撮影したものです。
なお、「住宅建築」の誌面では関谷氏と小椋氏の連名になっていますが、実際にはすべて関谷氏が一人で書かれたとのことなので、関谷氏の論文としてご覧頂くとともに、内容の問い合わせについては、関谷氏にお願いいたします。
在来木造住宅の新たな展開に向けて
―復権の鍵を握る新技術・TIP構法―
関谷真一+小椋祥司
阪神大震災は、在来軸組構法による木造住宅(以下在来木造住宅)に対し、様々な問題を私たちに投げかけた。現段階では、詳細な調査結果が出ていないため、被害の概要からしか判断せざるを得ないが、建築設計にかかわる者として、認識を新たにせざるを得ない点が数多くある。
昨年の日本の戸建て住宅新築件数は約90万戸で、そのうち在来木造住宅は約60万戸を占めている。新築される戸建て住宅のうち、在来木造住宅が過半の数と面積を占めているのにもかかわらず、あまりにも建築設計者(建築家)の業務が在来木造住宅から疎遠になってしまっているように思う。
確かに、建築設計教育の場においても、木造に対する十分な教育が行われているとは言えないし、今までのような体制で在来木造住宅の設計業務を行っていたのでは業務として成立させることは難しい面があるのは事実だ。さらに、形態のデザインを優先させてしまうあまり、構造や居住性を犠牲にしているのも事実である。また、現場の施工者と設計者の距離があるばかりか、設計者と関わりがない所で工務店や住宅メーカーによって、大多数の木造住宅が建てられている現実もある。
しかしながら、これを契機に設計者のみならず様々な立場で、在来木造住宅の問題点を把握し、その一方では特質を活かす新たな展開の可能性を見いだして行くことが、今後の日本の木造住宅をより良いものにし、豊な生活空間を創造させることに繋がるはずだ。今後の在来木造住宅における新たな可能性を秘めた新技術TIP構法を紹介し、さらに木造住宅の建設の多くを支えている地域工務店と設計事務所の方向性をさぐるものとする。
在来木造住宅の課題
今回の阪神大震災で新耐震以後の木造建築の全壊は少なかったものの、建築基準法通り施工された建物にも被害があったのは建築基準法で、耐力壁の総量の規定はあるが、具体的な配置までは規定されていないことであると言われている。また建築基準法ぎりぎりで建てられ、構造的な余力が少なかったのも倒壊の原因の一つとされている。
倒壊した在来木造住宅の破壊性状として、柱のほぞから桁がはずれたものや、柱が土台から抜けたものなどが報告されている。
また、一部のマスコミによりプレハブ住宅の耐震性が高く評価され、結果的に在来木造住宅の評価がやや下がっている状況の中、在来木造住宅における新たな指針が必要とされている。特に、社会に対してアピールすることがほとんどできない在来木造住宅を主体とした仕事をしている中小工務店の危機的状況がうかがい知れる。今後は、中小工務店であっても、在来木造住宅における施工技術やデザインを含めた、性能品質といった質にかかわる点の改善が必要だ。さらに、ストックとしての住宅造りや地球規模の環境問題や日本の森林資源における国産材活用の動きにも対応して行かなくてはならないだろう。
在来木造住宅と地域工務店の関係
前述のように、在来軸組構法は日本において最も多く使われている一般的な構法であり、当然、それにかかわる技術者の数は多い。また、地域性を反映しやすく、住み手の個性に応じた比較的自由な設計に対応でき、生活の変化による増改築に対応しやすいなどのフレキシビリティーが在来木造住宅の大きなメリットである。また、地場産業の一端を担う地域工務店は、地域産業の活性化の担い手でもある。施主に対し顔が見えるため、責任ある対応をせざるを得ない立場でもある。さらに、大組織に比べて経費が少なくて済み、資材の購入や施工面における合理化ができるのであれば、質の高い適正価格の住宅を供給できるはずだ。その際、地域の設計事務所の協力が得られるのであればより一層の効果が期待できるにちがいない。
TIP構法とは
TIP構法は、東京工芸大学の上西秀夫教授が考案し、数年にわたる卒業研究生たちとの実験によって開発された在来軸組構法を飛躍的に改良したものである。
TIPは Triangular(三角形)Incorporate(接合用)Plywood(合板)及び、
Tokyo Institute of Polytechnics(東京工芸大学)の略でもある。
上西教授によれば、TIP構法の特徴は在来木造住宅において、
| (1) |
軸組の交点(節点)は、原則として構造用合板と釘で接合する。 |
| (2) |
筋かいの両端には適当なすき間をあけ、接点の合板に釘打ちで接合する。 |
| (3) |
外壁下地板を斜め45度に張る。 |
以上の三点が基本になっている。通常は特殊な金物を使用しないと圧縮力にしか効かない筋かいを引張り力にも効かせるための工夫として、構造用合板のガセットプレートに筋かいを釘止めにする上西教授の独自の方法と、大正時代に佐野利器によっても提案され、その弟子にあたる田辺平学の実験によって確かめられていた外壁下地板を斜め45度に張る方法を統合させたものであると言う。実物大のモデルによる実験により、水平力に対して住宅金融公庫基準の約2.69倍の強度が実証された。
さらに、TIP構法のメリットについて以下のように述べている。
(1) |
柱脚と土台を構造用合板と多数の釘で接合するもので、柱の浮き上がりを少なくすることができる。 |
(2) |
筋かいの端部を構造用合板と釘で接続するので、釘の剪断力で力を伝える構造となり、圧縮にも引張りにも有効な筋かいとなる。 |
(3) |
筋かいの上下端に適当なクリアランス(隙間)を設けるので、筋かいによる桁の突き上げや筋かいの座屈が少なくなり、耐震壁の変形性能が大きくなる。 |
(4) |
筋かいの端部を構造用合板と釘で接続する構造なので、接合部設計が可能である。即ち、太い筋かいに対しては、構造用合板を大きくするとともに釘の数を増やすことによって対応することができる。 |
(5) |
筋かい・柱・横架材を接合するために用いる構造用合板が下地板を兼ねているので、外壁下地の表面が平らになる。 |
(6) |
外壁の下地(ラス下地)を斜め45度に張るので下地板が筋かいとして働き、水平耐力が著しく増大する。 |
(7) |
窓開口のある軸組の四隅に構造用合板を取りつけるので軸組はラーメン構造のような骨組となり、建物の水平耐力が増大する。 |
(8) |
斜めに張る外壁下地によって軒桁や妻桁が柱と結びつけられるので台風や竜巻によって小屋組が飛ばされるような被害を防ぐことができる。 |
(9) |
斜めに張る外壁下地や開口部周りのラーメン効果により建物の変形復元性能が大きくなる。 |
(10) |
筋かいの取り付けなどの精度が要求されず易しい構法なので、未熟練技能者でも容易に施工することができる。 |
| |
(TIP構法説明資料より) |
阪神大地震で指摘された在来木造住宅における柱の引き抜きや筋かいによる突き上げ、店舗等の大きな開口部の補強、直下型地震の上下動にも対応できるなどのいくつかの問題点の解決に、TIP構法がきわめて有効である。さらに、地震時における大きな変位にも対応できる粘り強さ(靱性)を持ち、被害を受けた場合でも容易に修復ができる点もTIP構法の優れた点だ。また、既存住宅の耐震補強の問題も指摘されているが、在来木造住宅にふさわしい耐震補強方法としてTIP構法が有効である。
TIP構法は、在来軸組構法の通常の技術を用いて簡単に施工できる。各個人の多様な要求を反映できる在来軸組構法の持つフレキシビリティーや地域性のある木造住宅への対応等、在来木造住宅の持つ数多くのメリットを活かしつつ、構造耐力の向上を簡単にしかも安価に(30坪程度の住宅で2〜3人工の増)実現することができる。
現在、筋かいの接合部が特殊であるため、従来の住宅金融公庫の標準仕様書参考図には整合しないが、住宅金融公庫の技術開発課と日本TIP建築協会が協議して定めたTIP構法特記仕様書を建築確認申請時に添付することで許可されることになっている。TIP構法によって生み出された2.69倍の水平強度は大地震後も使用できる建物とするために余力として扱い、筋かい及び下地材を使用した耐震壁の倍率は従来通りのまま使用している。
都市部での3階建住宅や高耐震住宅への適用が期待されるばかりでなく、割り増し融資や返済期間延長、地震保険金額の低減等の優遇措置が期待されている。
地域主導の住宅文化創造を目指して
現在、TIP構法の普及を進めるにあたり、日本TIP建築協会が組織され(3月現在の会員数約150社)、全国的な活動を行っている。TIP建築協会は技術としてTIP構法を広めるとともに、より多くの人が使えるオープンシステムとしてTIP構法を位置づけ、そのためにもとりわけ、地域主導型のTIP構法普及を目指しているのが特徴である。地域の産業として住宅建設を位置づけ、良心的な地域工務店の活躍の場をつくることがひとつの目標とされている。優良地域工務店を組織し本格的な受注を目指した建築事業協同組合による事業展開がすでに行われている地域もある。
また、様々な場面で設計者と施工者の共同作業が行われようとしており、施工者が中心の日本TIP建築協会がすでに設立2年を迎え、さらに設計者の団体である日本TIP設計協会設立準備が進行している。
施主と施工者と設計者の緊密な関係に基づいた地域における住宅づくりは、今後、住宅のありかたに一石を投じることと思われる。設計相談、基本設計、軸組図の制作などのメニューを用意し、ちょっとした相談にも応じる設計事務所の存在も必要になってくるだろう。
TIP構法を、生命と財産を守るという最も重要な役目を果たす建物の骨格を形成する中心的な要素として位置づけ、さらに住環境向上に役立つ様々な要素を付加して行き、適正コストで総合的に質の高い住宅を創り上げることが我々設計者にも求められている。
私たちは、TIP構法を活用しながら、地域にふさわしい、人々の多様な個性を表現できるまちづくりの一端をも担う新世代住宅を創りだすことを目標としている。住宅は単なる器ではなく、生活空間、住環境を形作るものであり、文化そのものとして位置づけるべきものだから。
せきやしんいち+おぐらしょうし/日本TIP建築協会技術開発委員会オブザーバ
※ご注意
●PDF書類はAdobe Acrobatで作成されています。したがってPDF書類をご覧(ダウンロード後にご覧になる場合も)になるためにはAcrobat
Reader日本語版がパソコンにインストールされている必要があります。インストールされていない場合は、予めアドビシステムズ社のサイトよりダウンロード してください。
 |