専門家から見たTIP構法

第3回 住木センターから見たTIP構法(1)

財団法人日本住宅・木材技術センターと「TIP構法」

 昭和59年の春、財団法人日本住宅・木材技術センター(以下住木センター)の研究部長小倉高規氏から電話を頂き、林野庁の「間伐材を利用した肉用牛舎の設計基準策定委員会」に加わるよう要請され、委員会のメンバーとして委員会活動のほかに、繁殖牛舎の実大実験や肥育牛舎の標準設計図作成などのお手伝いをしたのが住木センターとのお付き合いの始まりでした。委員会活動は数年で終わりましたが、平成5年に日本TIP建築協会が設立してからもお付き合いが続き、毎年の通常総会には理事長と飯島氏お二人または理事長代理として飯島氏が出席くださり、励ましの祝辞をいただいております。飯島氏には平成5年前後に、東京工芸大学の私の実験室を見ていただき、帰途本厚木の駅ビルのお店で酒を酌み交わしながらTIP構法に対する意見交換をした記憶が蘇ってまいります。
 TIP構法の情報をTIPニュースとして(株)黒潮社が発行する「工務店経営」に掲載を始めたのは平成10年のことでした。平成10年8月号の工務店経営に掲載されたTIPニュースNo.2には飯島氏が「TIP構法に期待する。」と題して寄稿してくださったので以下にその本文を紹介します。また、その1年後には住木センターの機関紙である「住宅と木材」の誌上で、TIP構法に取り組む私の姿勢を紹介してくださった「フロント・インタビュー」も合わせて紹介させていただきます。

 

工務店経営‘98 .8 NO.352  TIPニュース NO.2  
TIP構法に期待する。  飯島敏夫氏寄稿


(財)日本住宅・木材技術センター主任研究員(当時) 
(財)日本住宅・木材技術センター企画技術部長(現在)

 何年前か忘れたが、TIP構法を最初に見たときの印象は、次のとおりである。「この構法は温故知新の発想で、より科学された下地材(構造材)として生まれ変わったのかな?」
 この事を、この構法を開発した上西先生に、機会があったら確認したいと思いながら、現在に至ってしまった。
 先生には当センターに十数年前から学識者としてご協力をお願いし、新工法の開発などにご尽力をいただいた。
 この構法の特徴は、業界紙やパンフレット等で周知のとおりであろうが、下地材の張り方や筋かい端部の取り付け方に特徴がある。
 下地材については、公庫仕様書に記載のとおり、下地材を水平に柱・間柱に張り付けることが一般的であるが、TIP構法はこの下地材を斜め45度に張る。
 また、柱と土台や桁などの横架材との交点は、三角形の構造用合板と釘を使って接合する。
 筋かい端部の取り付け方法については、筋かいの上下端に適当な隙間をあけ、構造用合板に釘打ちにより取り付ける。
 この筋かい端部の取り付け方には、正直言って驚かされた。筋かい端部の取り付け方法は、柱と横架材に接して隙間がないように取り付けなければならないと思っていたのが、この構法は筋かい端部は柱に接しているが、土台や桁などの横架材に接しないで隙間があいていることである。
 この取り付け方は、圧縮に強く、引っ張りに弱いとされてきた木製筋かいの弱点をうまく解消しているのであるが、これらの特徴の組み合わせが、木造住宅の 耐震性能の向上を実験で検証したことは言うまでもない。
 ちょっと見ただけでは、下地材を水平から斜めに張ったりして、何でもないように見えるのがこの構法の特徴であろうが、科学的な考え方が各所に秘められていることが理解できよう。
 つまり見よう見まねでは、この構法の本来の効果が発揮できないのである。
 実験で得られた耐震的なTIP構法の住宅を造るには、構造上の考え方を忠実に守るとともに、柱と横架材の交点に使うガセットプレートの位置、筋かいの向きや位置、下地材の向きなどを正確に施工しなければならないのである。
 今後、建築基準法が変わろうとしている。(1)建築確認等の手続きの合理化、(2)建築規制の合理化、(3)建築規制の実効性の確保などである。
 特に、阪神・淡路大震災により建築物に対する防火や構造安全性の必要性が改めて認識されたことから、必要に応じて施工中の検査を実施する制度が設けられようとしている。つまり、中間検査の導入である。これは検査の徹底や充実により建築物への安全性を確保することにある。
 日本TIP建築協会においても実施している、構造計画と品質管理の徹底や充実を図るための体制が、木造軸組構法の全体の信用回復につながることを期待したい。

 

住 宅 と 木 材
平成11年10月号


財団法人  日本住宅・木材技術センター

フロント・インタビュー
  日本TIP建築協会
    会長 上 西 秀 夫 氏

 
国産材を活用した耐震性の高い木造住宅の普及を目指しています。

― TIP構法に着目する工務店、住まい手が増えているようですね。

  昭和四九年に、東京工芸大学が建築学科を設立するにあたって、初代教授として就任し、数年後実験室を持つことになりました。
 この実験室で、以前から木造住宅が好きだったこともありますが、先輩や友人のアドバイスを受け、木造の耐震性についての実験を始めたんです。耐震性強化をターゲットにして系統的に実験を始めたのは昭和六〇年からです。
 たまたま遊びに来た友人が私の実験に興味を示し、熱海の自宅新築にあたって、ぜひ私の開発したTIP構法で建てたいということで、平成二年に初めて実用化されました。下地板を斜めに張ること自体は、日本でも大正時代から言われていますし、外国にもあることなんです。ただ、それを実用化した構法というのはなかったので、新聞各紙に紹介され、随分反響がありました。
 TIP構法という名前は、三角形(Triangle)の接合(Incorporate)合板(Plywood)を用いた構法であるという意味と同時に、東京工芸大学(Tokyo Institute of Polytechnics)の頭文字をとったものでもあります。
 平成三年、横須賀に第二号TIP構法住宅が建ったとき、住宅金融公庫の融資住宅として認められました。
 日本TIP建築協会が発足したのは平成五年一月十六日です。その時は十数社でした。それから徐々に増えましたが、特に阪神の震災後は急激に増えました。
 また、地方在住の会員の要請に応えて、全国各地で毎月のようにセミナーを開催いたしました。
 今、会員は一五〇社になっています。着工建築は累積で四、二〇〇棟になりました。全国的にちらばっていますが、関西方面が多いですね。
 TIP構法が新聞やテレビで随分取り上げられているので、会員工務店は営業がやりやすいようですよ。お客さんがもうこの構法の良さを分かっていて、うちもTIPでやりたいからという話も来るそうです。


― TIP構法とは具体的にどんな構法なんでしょうか。

 TIP構法の特徴は大きく分けて三つあります。一つ目は、柱と横架材の交点をガセットプレートという直角二等辺三角形の構造用合板と釘で接合している点。二つ目は、筋かいの端部を、横架材との間に二cmほどの隙間をあけて、前記のガセットプレートに、釘で接合していることです。木造軸組の筋かいは圧縮には強いけれど、引張りには弱いというのが定説ですが、釘のせん断耐力で力を伝えるので、圧縮にも引っ張りにも効く筋かいができます。また、隙間をあけることで、水平力が加わった時に起こる、桁の突き上げ、柱の引き抜きや筋かいの座屈破壊を抑えることができます。三つ目は、通常は水平に張る外壁の下地板を斜め四五度に張ることで、下地板の一枚一枚が水平力に抵抗してくれます。
 この構法と公庫仕様による二つの実大試験体の水平加力試験の結果、前者が後者の二・六九倍の強度を持つことが実証されました。


― 施工は従来の軸組構法と比べて違う部分がありますか。

 施工方法自体はそれほど特殊なものではないので、私がここで一時間も講義すれば、どの大工さんでもできるはずです。材料も、従来のものと何ら変わりませんので、この構法によるコストアップは大工手間の分だけ、建築費全体の一%程度増えるに過ぎません。
 TIP構法を初めての人に説明するためのセミナーを毎月第二水曜日に、技術的なことを勉強したい人には第四水曜日に技術セミナーを、それぞれ開催しています。
 もう一つ大きな特徴として、構造計画図を描いて仕事を進めるように指導しています。木造の設計では、構造設計と言えるほどのものはないんです。耐力壁をどのくらい入れるかという壁量計算をやるだけで、大切な柱と梁の接合部を明確に表示する図面は殆ど描きません。図面がなければ大工さんの判断で造られることになります。それでは品質が一定しません。
 今後、住宅の性能表示や性能保証といった制度が本格的に導入されようとしている中で設計者も施工者もこれまでのようなやり方に頼っていては駄目なんです。だから私は当協会の設計担当者に対しては、接合部までもきちんと表示する構造計画図を描くよう、また施工担当者には、その図面に従って正確に施工するよう指導しています。


― TIP構法の新しい展開でスギ材にも新たな可能性が出てきたようですね。

 ガセットプレートの合板の裏に、鉄板を貼ったものも新たに開発しまして、最近はそちらの需要も伸びてきています。合板には方向性があり、力が加わると表面から剥がれていくような壊れ方をするんです。そこに鉄板を貼ることによって、合板と鉄板が互いの欠点を補い合って新しい材料になります。私はRC(Reinforced Concrete 鉄筋コンクリート)ならぬRP(Reinforced Plywood 鉄板で補強した合板)と呼んでいるんです。
 このRPによる、スーパーTIP構法で実験してみたところ、最大荷重が公庫仕様の4.4倍という結果がでました。
 スギは弱いととよく言われます。しかし、構造材として使うときは、普通、柱や梁が折れるということはなくて、まず接合部が壊れます。ですから、仕口をしっかりすればスギだって丈夫になるはずだということで、この実験はスギを用いて行い、十分な強度を実証しました。
 この構法は、軸組構法の耐震性を高めることで、ユ−ザ−に木造住宅の良さを再認識してもらい、需要拡大を図ることが可能となります。
 また、実際に材木を使用すると同時に、工夫次第でもっと国産材の可能性を広げていくことができるという意味で、国産杉材の需要促進にも繋がるのではないかと考えます。
 また、TIP構法は新築に限りません。既存の軸組をそのまま利用し、水平に張られた従来の下地板を取り外し、新しい筋かい、ガセットプレートと斜め四五度の下地板を取り付けると、低コストで耐震補強が可能です。私の家も、去年の九月に一部壊して耐震リフォームしました。これから中古住宅の維持・更新は住宅業界の重要な課題となってくるわけですが、その意味でも、TIP構法のような発想の転換による新しい提案が、今後ますます求められているのではないでしょうか。


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バックナンバー
第1回
関谷真一氏の「住宅建築」投稿論文の紹介
第2回
松崎謙一氏の記事「TIP構法とは」の紹介

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